2017.11.24 Friday
2017.08.17 Thursday
山中を狂わせた“倒すため”の闘争本能 進退は保留 続行ならネリ
プロボクシングのWBC世界バンタム級タイトルマッチは15日、京都の島津アリーナ京都で行われ、王者の山中慎介(帝拳)が同級1位のルイス・ネリ(メキシコ)に4回2分29秒TKO負けを喫した。2011年11月の獲得以来、5年9カ月に渡って12度防衛してきた王座を明け渡す結果となった。期待された具志堅用高氏の世界王座連続防衛の日本記録13に並ぶことはかなわなかった。
ネリの連打につかまりタオル投入
一発の威力では山中。連打の回転力ではネリ。
そのような構図で捉えられていたサウスポー対決。最も警戒していたネリの連打に山中は捕まった。フィニッシュラウンドとなった4回。山中は挑戦者が思いきりよく振ってくる左右のフックを受ける格好になった。ラウンド中盤。左から返した右フックでバランスを崩したところにさらに右を追撃され、山中はロープ際まで後退する。ここは体を入れ替えて逃れたが、22歳の若きメキシカンの攻勢は続いた。
迎えたラウンド終盤。ネリの放り込んできた左ロングフックが肩越しから直撃。バランスを失った山中はまたもロープ際まで後退した。連打にさらされながら、山中も頼みの左を何度も打ち返す。懸命のダッキングで決定打は許さなかったものの、ロープに体をもたせかける山中の体勢は悪く、左は空を切った。ネリの連打の圧力に押され、ロープ際に釘づけになった状態での攻防がひとしきり続くと、大和心トレーナーが棄権の意思を示すタオルを投げ入れながらリングに飛び込んで山中を抱きかかえ、レフェリーが試合終了を宣した。
しばらく呆然とした表情で結果を受け止められない様子の山中だったが、こみあげてくる涙を抑えることができなかった。リングの中央に進み、2階席までぎっしり埋まった四方の観客に向かって気丈に礼をする山中の首には、いつの間にか、入場時に提げていた長男・豪祐くんが手作りしたWBCのメダルがかけられていた。赤いガウンを着て、フードで顔をすっぽりと覆い、リングを降りていく山中を「シンスケ・コール」が追いかけた――。
ポイントの“足”を使えなかった
「ビデオを見てみないと分からないですけど、4回の(最後の)場面は自分としては(パンチを)もらってなかったですし、効いてもいなかったんですけど、(同じ場所に)止まり過ぎて、セコンドを心配させてしまったことが原因なので」
控え室で会見に応じた山中は「まだやれるという思いはありました」と吐露したが、タオル投入のタイミングは置いておいて、なぜ注意を払っていたはずの連打を序盤から許してしまったのだろうか。
ネリに2発、3発と連打をつながせないために山中と大和トレーナーが試合前、ポイントに挙げていたのが“足”だった。つまりフットワークを駆使し、同じポジションにとどまらないこと。だが、山中がこの“足”を使うことは、ほとんどなかったと言っていい。
初回は山中の鋭い右ジャブが目立った。ジャブもロングレンジをキープすることで、ネリのフック、アッパー系中心の連打を出させないためには有効だが、それも“足”と連動していなければ機能はしない。ネリに得意の形を作らせない以上に恐らく山中の意識を占めていたのが自身の左をいかに打ち込むか。山中は早々に手応えをつかんでいたからだ。
相手のパンチも当たる中間距離に
試合開始のゴングが鳴り、向かい合ったときの山中の感覚は「これなら、いける」だった。映像で見たよりもやりやすい。距離も戦いやすい。ジャブもしっかり当たる。そうなると本能が倒す方向に向くのが山中である。ステップは細かなバックステップで左を打ち込む間合いの調整に、右ジャブは左のタイミングを計るために働き出す。より位置取りは正面になり、距離は自分のパンチも当たるが、相手のパンチも当たる中間距離になっていく。
「それでも、(ネリが)入ってくるところに左を狙いやすかったですし、あの距離でも自分の感覚としては左のタイミング自体は合っていたので、当てるチャンスでもあったんですよ」と山中。2回終了間際にはネリに先に左を当てられ、連打で詰めてきたところに左を合わせ、逆にぐらつかせた。だが、3回終盤のパンチの交換は、どっちに転ぶか予想がつかないくらい、スリリングに感じられた。いかに山中に自信があったとはいっても、まだネリが元気な序盤はリスクが高かったかもしれない。
「期待してくれた方に申し訳ない」と涙
ここ最近の山中はダウンを喫することもあり、被弾も目につくようになった。この11月で35歳。年齢を指摘する声もあがるようになったが、理由は決してそれだけではないだろう。
今回、山中が意識した“足”の原点は初防衛戦の頃までさかのぼる。軽量級のビッグネームで山中との一戦に3階級制覇を狙っていたビック・ダルチニヤン(オーストラリア)にヒットアンドアウェーを機能させた。ポイントリードで迎えた最終回。陣営の作戦はリスクを冒さず勝ちに徹すること。初防衛戦で迎えた強豪相手に内容的にも見事な判定勝ちだったが、以前、専門誌で山中にインタビューする機会があったとき、「倒しにいかなかった自分に後悔した」と言っていたことがあった。その悔しさが“神の左”を命名されることになるトマス・ロハス(メキシコ)戦の戦慄KO劇につながったのだ、と。
以降の山中のボクシングは、防衛を重ねるごとに、より倒すスタイルへと洗練されていったように感じる。その倒しにいく姿勢こそが防衛記録より何よりファンを惹きつけてきた山中の魅力だろう。
会見の際、ずっと涙をこらえていた山中が嗚咽を漏らしたのが「期待してくれた方に申し訳ない」と抑えきれない思いを何度も伝えようとした3度目のことだった。http://oretokumanga.wp.xdomain.jp/?p=25
「自分の防衛のたびにこれだけ多くの方が応援してくれて。それに応えられず、喜ばせてあげられなかったことが……」
そのあとは涙で言葉にならなかった。
本田会長も「ネリとの再戦しかない」
試合翌日、前王者となった山中の一夜明け会見が開かれた。
あらためて、周囲からの大きな期待に応えることができなかった悔しさを真っ先に語った山中は、今後について「ホテルで朝まで嫁といろいろ話し合い、いろいろ考えたが、すぐに答えは出せない。もう少し考えさせてください」と話し、その上で「(ネリ戦で)出し切っていない悔しさがあることは確か。自分では体は問題ないと考えているが、ここ最近、危なっかしい試合を見せている。それも含めて考えたい」とした。
一時代を築き上げてきた山中の1戦1戦にかかるプレッシャーの重さ、覚悟がうかがえたのが「正直、自分の気持ちとしては今回納得のいく勝ち方ができれば、もういいのかな、と思っていた」と明かした言葉だった。
「(現役続行となれば)もちろん考えるところはネリだけ」と山中。本田明彦・帝拳ジム会長も「(山中が)やりたいと言ったら、ネリとの再戦しかない」としている。自分の心と体にとことん問いかけながら、じっくり結論を出す。
2017.11.24 Friday